国公立大学学長宛意見送付(2020年8月)

筑波大学様への意見書

令和2年8月吉日

国立大学法人 筑波大学

学長 永田恭介 様

自由と科学の会

代表  岩本 哲

謹啓 処暑の候、ますますご清栄の事とお慶び申し上げます。また、新型コロナウイルス対策や先般の水害による関係者の被災や対応への、貴学のご対応とご心労、痛み入ります。

従前の貴学の、我が国の科学技術への貢献、誠に感謝の念で一杯でございます。

この手紙は、工学部(今回は理学部・農学部・海洋学部・獣医学部も新規に追加)および類似学部を有する国公立大学83校に送らせていただいております。

 私共は「自由と科学の会」と申します。今年7月1日をもって旧名の「防衛研究推進を求める自由市民の会」より改名いたしましたが、通算で2017年1月より活動をしております。防衛装備庁の研究助成制度「安全保障技術研究推進制度」に研究者が自由に応募できるよう、「学問の自由」を求めて活動しており、スタッフには現役大学教員や法曹関係者もいます。

 一昨年8月および昨年11月に、学長様(総長様)宛に署名簿を送らせていただき、それと併せて、工学部教員の先生方にも議論を共有していただきたく、メールを送らせていただきました。

 あれから1年近くたちましたが、引き続き議論をしていただきたく、署名文を送付いたします。ただし、署名簿の印刷・郵送は当会の予算的に厳しく、今回は署名文のみの送付とさせていただきます。現在、大学宛の署名は4,398名(8/15現在)の賛同者が集まっており、別の日本学術会議宛の署名では5,012名(8/15現在)の賛同者がおります。もちろん、今回も教員の先生方にもメールを送らせていただきました。

 署名文および当会サイト( http://liberty-and-science.org/ )にもありますが、当会の主張は

・すべての科学技術は軍事利用も民生利用も可能という前提に立ち、国際法・国内法等に基づく公平厳正な管理と、学問の自由の最大限の保証を求める

・大学が研究者に安全保障技術研究推進制度に応募させないのは憲法第23条「学問の自由」および憲法22条第1項「職業選択の自由」への侵害であり、憲法違反である

・日本学術会議や反対派が問題にしている「研究の公開性への侵害」「政府による統制」「研究は特定秘密にされる」は全くの嘘である

・防衛装備庁だけを禁止しても軍事技術拡散防止には全く役に立たず、むしろ研究の現場を委縮させ科学技術を停滞させる。軍事技術拡散の可能性は科研費等も同様である。

・かつて(現在でも)多くの大学が行っている「自衛官の大学入学拒否」という、防衛研究弾圧と同様に、平和に名を借りた醜行を繰り返してはならない

というものです。また貴学は、過去に安全保障技術研究推進制度への応募・採択をされたご実績をお持ちです。心より感謝申し上げます。反対派の圧力に負けないよう、今後とも期待いたします。多くの反対派の方々が主張されることに対しての反論文を同封させていただきます。ご参考にして下されば幸いです。 

また、学問の自由を求める半面、当会としては先端技術を研究される貴学に対しては、管理を外れた予期しない、技術の軍事転用防止の観点から、厳正な輸出管理をお願いしたいところでございます。同封した新聞記事は、今年5月に読売新聞が連載した経済安全保障および先端技術流出防止についてのもので、読売新聞社から許諾を受けて貴学に参考資料として配布いたします。また、当会サイト( http://liberty-and-science.org/ )の「メディア掲載(1)」「メディア掲載(2)」ページなどもご覧になっていただきたいと存じます。

読売新聞、日本経済新聞などでは、今年5月以降様々な報道がなされていますが、以下に要点を記します。

・今年4月に内閣国家安全保障局に経済班が設立され、年内に初の日米当局間の会議をする予定

・日米当局は、軍事転用可能な技術を安易に海外流出させない施策などで連携を深めたい考え。①対内直接投資監視強化や輸出管理の徹底、②国内大学や研究機関における外国人留学生審査等の扱い強化

・大学の外部資金源の開示義務づけ、虚偽報告には補助金停止など

・以上を含めた政府の統合イノベーション戦略2020は今年7月17日に閣議決定

以上のようなものになります。政府は、今年からさらに、大学・企業等に対し先端技術の輸出管理の強化を打ち出していく方針となります。

また先月、衆議院議員の長尾たかし氏が、日本の大学から中国の大学への技術流出について調査・Twitterで発言されました。

衆議院議員 長尾たかし  @takashinagao  2020年7月29日

【拡散希望】平成29年度、スパイ活動や輸出規制違反に関与している中国の「国防七大学」と大学間交流協定を結んでいる日本の国公私立大学は50校。内、26校で合計172人を受け入れていました。ヒューストンの中国総領事館閉鎖に関連した事態の発生を排除出来ない。大学の機微技術流出防止策を講じます。   https://twitter.com/takashinagao/status/1288438512702742528?s=20

当会のホームページでも触れていますが、オーストラリアのシンクタンク・豪州戦略政策研究所

https://unitracker.aspi.org.au/

では、軍事転用の可能性の観点から中国の大学の危険性をランク付けしています。

名指しはしませんが、日本国内の多くの大学、名門大学から地方大学に至るまで、前述のランク付けの中で「Very High Rick」「High Risk」と格付けされた大学と提携、協定、留学生交換をしている大学が数多く見られます。それらすべてが即、日本から中国人民解放軍への技術流出を意味するものではありません。

しかし平和維持という観点から、十二分に技術流出にはご留意されるべきものであります。防衛装備庁の研究資金は多くの大学で応募禁止されていますが、防衛装備庁だけを問題視し、これら中国への技術流出に無警戒というのが許されてよいはずがありません。貴学では既に十二分に整合性ある議論と対策をなされているものと信じます。

 最後になりますが、どうか自由と平和、科学技術の発展などについて多角的で自由闊達なご議論を学内で実施してください。結びになりますが、貴学の益々のご発展をご祈念申し上げます。 謹白

添付資料① 「軍事研究禁止への反論」およびパワーポイント資料

「軍事研究禁止」への反論

令和2年8月吉日

自由と科学の会

「〇〇大学では、建学精神に基づき、軍事・兵器開発を目的とする研究は行わない」

以上のような「軍事研究禁止」の方針を打ち出している大学が多数見られます。軍事研究反対派の主張でもよく見られます。私共は反論させていただきます。ご参考になれば幸いです。

https://www.mod.go.jp/atla/funding.html

 上記・防衛装備庁 安全保障技術研究推進制度(以下、同制度)のホームページでは次のように同制度の概要が説明されています。

 「とりわけ、近年の技術革新の急速な進展は、防衛技術と民生技術のボーダレス化をもたらしており、防衛技術にも応用可能な先進的な民生技術、いわゆるデュアル・ユース技術を積極的に活用することが重要となっています。

安全保障技術研究推進制度(競争的資金制度※)は、こうした状況を踏まえ、防衛分野での将来における研究開発に資することを期待し、先進的な民生技術についての基礎研究を公募するものです。」

 上記の説明に基づき反論させていただきます。

  • 安全保障技術研究推進制度は直接の兵器・防衛装備品の研究は目的としていません。あくまでも技術成熟度(TRL)1~2程度の基礎研究です。

https://www.mod.go.jp/atla/funding/kadai.html

上記サイトに過去の研究採択課題を掲載しておりますが、兵器・防衛装備品の直接的な研究課題はありません。 下記研究を他の助成制度で研究したとしても全く違和感がありません。

(具体例 令和元年度採択)「Ni系耐熱超合金における高付加価値鋳造プロセスに関する研究」

(具体例 平成29年度採択)「半導体の捕獲準位に電子を蓄積する固体電池の研究開発」

よって、同制度は「軍事研究」「兵器研究」には該当しません。

  • 同制度で公募している基礎研究については、軍事利用も民生利用も両方応用可能なのです。もちろんデュアル・ユースです。防衛装備庁が認めている通り、同制度の目的は将来的な防衛装備品開発の基となる基礎研究の向上ですが、軍事目的のみの基礎研究など現在では存在しません

品質工学などを学ばれた工学系の方ならば常識的な事だと思いますが、科学技術は積極的に民生利用し実用化してもらうことで改善され、信頼性が向上し新たな技術を生みます。積極的な民生利用は将来的・間接的に防衛装備品の開発につながり、防衛装備庁としては積極的に民生利用を進めてもらうことを企図していることが既述の同制度の概要から読み取れます。

これはいわゆるスピンオンですが、これは同制度に限らず、科研費や他の研究資金にも当てはまることです。よって、「軍事を目的とする」研究には当たりません。

  • 上記でも述べたとおり、最先端の技術は、各国政府の政治的思惑とは別に、デュアル・ユースが可能です。これは理工系教員ならば誰でも常識的に知っている科学的事実です。

 同制度に限らず、どのような研究助成制度で生み出された技術であっても、民生利用ののち、軍事転用される可能性はあります。また、軍事転用ののち人道目的に使用できる可能性もあります。技術が進歩し時代を経てみないと誰もわからないのです。

 本当に軍事転用の可能性をゼロにしたかったら、科研費、他省庁含めすべての研究活動をストップせねばなりません。もちろんこれは不可能です。

 どのような研究助成であっても、以上のような本質的には同制度と変わりません。よって、同制度は「軍事研究」には該当しません。

以上になります。ご参考にしていただければ幸いです。

添付資料② 読売新聞報道資料

[安保60年]第2部 経済安全保障<7>防衛研究阻む学術会議…予算に影響力 民間活用停滞 読売新聞全国版 2020/05/14

[安保60年]第2部 経済安全保障<1>技術狙う中国「千人計画」 読売新聞全国版 2020/05/04

[安保60年]第2部 経済安全保障<8>縦割り打破の「経済班」 読売新聞全国版 2020/05/16

[安保60年]第2部 経済安全保障<9>機微技術 把握・防御急ぐ…自民党税調会長 甘利明氏 読売新聞全国版 2020/05/17

添付資料③大学署名