【政策提言】自衛官の大学入学促進・民間との人材交流
当会では防衛研究の自由、自衛官の大学入学拒否の撤廃など、安全保障と学問の自由をテーマに活動を推進してまいりました。
近年、防衛省自衛隊では人口減少や自衛官の相対的魅力低下による特に任期制自衛官の人手不足や、AIやドローンなど全世界的な軍事技術の進展による高度高学歴人材の確保が課題となっています。
政府も無策ではなく、防衛省・自衛隊の人的基盤の強化に関する有識者検討会において、上記の諸課題について検討を重ね、2023.7.12付で報告書をまとめました。
https://www.mod.go.jp/j/policy/agenda/meeting/kiban/index.html
https://www.mod.go.jp/j/policy/agenda/meeting/kiban/pdf/kentoukai_houkokusyo.pdf
報告書の内容としては上記のような懸念事項を踏まえ、「特定任期付自衛官(サイバーセキュリティなどについての高度人材)の創設」「自衛官の高度化・高学歴化」「貸費学生制度の拡充」「任期制自衛官の退官後のキャリア形成の拡充」などに触れています。これについては当会としても概ね賛成ですが、恐縮ながら追加で政策提言を追記したいと思います。
おそらく政府・与党・防衛省自衛隊から提言すると野党・マスコミ・市民団体などから猛バッシングを食らうような内容もありますが、そこをあえて私代表が民間人(兼予備自衛官)である当会から提言させていただき、世論形成をしたいと思います。
1.「任期制自衛官退職時進学支援給付金制度」の拡充や受験勉強支援含め、任期制自衛官の大学進学の促進
任期制自衛官(1任期は陸2年、海空3年)の人材不足は非常に悩ましいものがあり、慢性的な定員割れが続いています。特に海上自衛隊の艦艇乗組員の不人気ぶりが酷く、艦艇勤務は一人でたとえば2人分の仕事をこなさねばならず激務で離職率も高いと聞き及んでおります。そうしたものに対しては、ストレスと激務に見合う賃金や個室化の推進なども必須です。それに加えて、任期制自衛官の退官後の再就職先・人生設計まで見据えたケアは必要と考えます。
先述の防衛省の提言でもありましたが、以下引用します。
1.隊員のライフサイクル全般における活躍を推進
・ 採用重視にとどまらない、在職中や退職後も含めた、自衛官のライフサイクルを通じた各種施策
退職自衛官の再就職先として多いのが警備会社や建設会社、運送会社、介護施設などです。派遣社員となる人も多いと聞きます。公務員試験を頑張って消防官や警察官になる人もいますが、多くはありません。いわゆる3K職場であり国防に身を投じてきた若者に対する報いとしては、あまりに貧弱です。自衛隊での知識経験がなかなか活かせる民間企業がないからです。(警備会社や建設会社を悪く言うつもりはありません。私も就職氷河期世代であり警備会社などでアルバイト勤務した経験もあります。私代表は現在もブルーカラー・現業職です)
ここで大いに推奨したいのが、退職した任期制自衛官に大学で学んでもらうことです。
退官後に大学進学をすることで、大幅に知識を増やし、一流企業の総合職に入社することも不可能ではないと考えます。年齢は他の学生より多少回り道しておりますが、軍事に対する見識を理屈でなく体で覚えてきた若い人材は、特に米中対立や経済安全保障、台湾有事なども考慮してBCP・経営を続けなければならない企業にとって視野の広い貴重な人材となり得ます。徴兵制のある中国・韓国企業の同年齢の若い社員から日本企業の社員が「舐められる」ことも少なくなると思います。
高校からストレートに上がってきた他の学生たちから見ても、世間、特に自衛隊という特殊な世界ですから、良い刺激になるはずです。(なおさらまだまだ日本は社会人大学生が少ないですから)特に理工系に進学すれば、デュアルユース研究も進むでしょう。
すでに日本では「任期制自衛官退職時進学支援給付金制度」が令和3年から試行されています。退職した任期制自衛官が大学進学した際に資金援助をするものですが、条件が厳しく援助も雀の涙程度です。
https://www.mod.go.jp/gsdf/jieikanbosyu/new/img/index/topics/shingaku.pdf
・退官後進学し、即応予備自衛官に任官したもので年額27.1万円、予備自衛官任官で年額4.5万円。
・支給条件は、①任期満了した日に退職、②予備自衛官・即応予備自衛官に任官、③大学の学部(夜間・通信除く)に在学していること
特に③は、困難な条件です。高校生ですら大変な大学受験勉強。多忙な部隊勤務の傍ら、細々した休暇を使って受験勉強するか(特に多忙な海上自衛隊の艦艇勤務員は不可能です。予備校にも通えません)、事実上、退官後に実家に戻って受験勉強に専念するしかありません。
2024年度から生活困窮世帯への大学無償化が始まります。それに準じた手厚い手当が必要と考えます。
退官後実家に戻らせるか、各種事情で実家に頼れない退官自衛官を一定期間住居補助を与える。その上で、予備校に通う支援金を与える。もちろん予備校への出欠管理をし、やる気を失ったものは資格喪失させる。そうすることで国公立や一流私立大学に入学することもできます。
少子化・学生減少に悩む大学にとっても、予備校にとっても良い話だと思います。
ここまで高度化した社会です。防衛省自衛隊も、昔みたいにボイラー技士だとか大型免許だけ与えて世間に放り出すのではなく、大学・あるいは本人の能力意思次第で大学院にまで生かせることで、国防に任じた若者に報いることが大切だと考えます。
2.大学を休学し任期性自衛官を勤務した学生への奨学金・学費等免除
「全日制大学」の入学試験に合格しなければならない1.の「任期性自衛官退職時進学支援給付金制度」よりは現実的だと思います。
高校卒業し大学に入学手続きをし、即時もしくは1〜2年大学通学した後、大学に休学届を提出し(2〜3年休学できるのか大学と調整が必要ですが)、陸海空の任期性自衛官に任官するのです。
一任期(陸は2年、海空は3年)勤務した後に大学に復学します。
対価として、防衛省自衛隊は学生に対し奨学金・授業料等の肩代わりと給与を与えます。もちろん、除隊後に予備自衛官に登録すれば増額するものとします。
大学授業料無償化・給付奨学金などの既存の制度より上乗せした好待遇でなければなりません。
人手不足に悩む防衛省はもちろん、学生にメリットは限りなくあります。
・自衛官が皆悩む、除隊後の進路の心配がなく、安心して自衛隊に勤務できる
・奨学金・授業料の心配がない。
・大学に復学後、新卒扱いで就活ができる。今は氷河期世代ではなく空前の人で不足時代であるため、数年の遅れは全くハンデにならない。
・体力と根性と協調性のある大学生であり、企業受けも良い。
休学して海外留学や世界貧乏旅行する学生もいますから、自衛隊に勤務する学生もいてもおかしくありません。
考えられるハードルとして、以下が考えられます。
・思想的に偏った大学教員から嫌がらせを受ける
これがもしあれば是正せねばなりません。
大学と自衛隊との制度のすり合わせさえできれば、Win-Winの制度になる、と確信しています。
3.サイバーセキュリティなど民間の高度人材を期限付き雇用など「官民交流の促進」
以下の日本経済新聞でも根本経団連参与が発言しています。
「日本で防衛省のサイバー部局の能力を高めたうえで民間人材を任期つきで集め、能力を高めて再び民間に戻るしくみができたら望ましい。」
記事ではさらに詳しく書いていますが、各種手当・退官後の年金などの処遇改善の他、民間と自衛隊との人材交流が大切です。
自衛隊の処遇改善「現代戦で必須」「高度人材を官民交流」 (2023.7.12 日本経済新聞)
改善策で報告書、評価をOBらに聞く 山崎幸二前統合幕僚長・根本勝則経団連参与
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA1116G0R10C23A7000000/
4.将来的に国内大学にROTC(予備役将校訓練課程)併設
米国・英国・韓国など多くの諸外国で、大学内にROTC(予備役将校訓練課程)が併設されています。現在の日本には存在しません。日本の防衛大学校、予備自衛官補といった制度とはまた違います。
以下引用します
「アメリカにおけるROTCは陸海空軍、および海兵隊の将校を育成するため特定の州立大学、私立大学に設置された教育課程のことであり、当該課程の修了者は陸軍士官学校・海軍兵学校などの卒業生と同様に初級将校(少尉)に任官する」
「ROTCでは、一般学生に混じって授業を受けながら、同時に軍事訓練を積み軍人教育を受ける。卒業後の数年間、軍役(現役・予備役、あるいは州兵)に就くことが義務付けられる。在学中は基本的に召集されないことになっているが、非常事態時には国会の命令により召集可能。」
「アメリカのROTC設置校のなかで、以下の6校が上級軍事大学(Senior Military College)に指定されている。
- 北ジョージア大学(University of North Georgia) – ジョージア州ダロネガ
- ノーウィッチ大学(Norwich University) – バーモント州ノースフィールド
- テキサスA&M大学(Texas A&M University) – テキサス州カレッジステーション
- シタデル(The Citadel) – サウスカロライナ州チャールストン
- バージニア軍事大学(Virginia Military Institute) – バージニア州レキシントン
- バージニア工科大学(Virginia Polytechnic Institute and State University) – バージニア州ブラックスバーグ 」
もちろん、このように大学内に軍事課程を設けることは、つい先年まで自衛官入学拒否をしてきた各国公立大学などでは特に老年教員、文系の教員たちが反対するでしょう。しかし世論の変化もあり、若手教員などは違ってくると考えます。
ただ、台湾沖縄有事などには軍人はいくらいても足りなくなります。到底現在の自衛隊だけでは足りません。長期的に、防衛に理解のある大学から優先して設置することが望ましいと考えます。
5.その他および結論
居室の個室化は必須です。どんなに防衛費がかかっても。訓練期間中はいざ知らず、部隊配属後は。帝国陸海軍時代の悪しき伝統は決別すべきです。人間誰でも相性の悪い人はいます。そんな人と一年中同じ居室で過ごす。これがどれだけストレスかわかりますでしょうか?よく自衛隊官舎内には部内カウンセリングの案内などが貼ってあります。人間の悩みの大部分は人間関係によるものです。カウンセラー(しかも専門の外部の臨床心理士などではなく、短期講習を受けた同じ部隊の上官とのことです)に相談しても無意味です。
「陸曹長、海曹長及び空曹長以下の自衛官に対して義務付けられている営内居住等についても、自衛隊の即応性や規律・ 団結の維持のためには必要な措置ではあるが、特に個室を与えられ育った最近の若者にとって、複数人が同部屋での居住といった プライバシーのない生活環境は必要以上に心の負担になっていないか。施設を設計・使用するうえでの基準や営舎内における居住ルールの現代化が必要ではないか。併せて、自衛隊内に存在する 髪型や髪色のルールなど、一部のしつけ事項についても、自衛官に対する国民の信頼が損なわれない範囲で、もはや合理性に乏しいものは変更・廃止すべきである。」(以上防衛省報告書より)
他にも雑多なアイデアはありますが、さしあたりここまでにしたいと思います
イスラエルではいわゆるコミュ障のゲームオタク・ニート青年をドローンのオペレーターに採用するなどなりふり構わぬ人材確保に力を入れています。このような制度は日本で世論の壁があるかとは思いますが、参考になるかと思います。もしこのようなニート・オタクを雇用する場合、よく考えられるのが、よく自衛隊にありがちな「敬礼や基本教練、体力錬成は最低限できなければ駄目だ」など周囲との軋轢で頓挫する事です。防衛省自衛隊として、今はなりふり構っていられないのが実情ではないでしょうか?
日本特有の、自衛隊(軍)と民間・他省庁との垣根を取り払い、お互い良い刺激になるように人材育成・人材確保を進められたら良いですね。
それこそ、企業を離職した40代のITエンジニアが、民間企業と並行して自衛隊応募を選択肢として普通にできるようになればと思います。まだまだ日本では自衛隊で働くことの認知不足、心理的ハードルが高いと思いますが。それはこれからの課題です。
今の日本は軍(自衛隊)と民間との障壁があります。予備自衛官や官民交流などお互い交流することで、「自衛隊の世界しか知らない自衛官」と「自衛隊・軍事に無知な民間人」を解消させていくことができます。元自衛官の多くは応急救護訓練の経験や、パワーもあります。災害時や、台湾有事などの際に率先して国民保護活動を行うことができるでしょう。「軍事と民間両方の知識見識を持った人」というのはこれからますます必要とされるでしょう。
最後に。キング牧師を引用するのはおこがましすぎますが、私には夢があります。
「・・・私には夢がある。それは、いつの日か、ジョージア州の赤土の丘で、かつての奴隷の息子たちとかつての奴隷所有者の息子たちが、兄弟として同じテーブルにつくという夢である・・・・・」
かつて自衛官を差別し入学拒否してきた大学で、当たり前のように自衛官が学生として学び、かつて自衛官を奇異な目で見てきた民間人が自衛隊に臨時職員として働く。軍民デュアルユース研究が進展する。民間人が軍事の見識を持つことで、日本の国民保護・民間防衛力が向上する。そのような夢が私にはあります。
以上の提言は日本ではマスコミや野党、「平和市民」団体等の圧力があると思います。しかし必要であり、絶対に必要とされると確信しています。
長文読了感謝します